
― お二人について“他己紹介”で教えてください。
深澤出会ったのは20代半ばでしたね。前職のメーカーでいっしょに品質保証の仕事をしていたんです。渋谷工場長は、筋道を立てて、考えて、動ける人ですね。机上の空論ではなく、実際に手を動かして得た知見を大切にする人だなと感じています。
渋谷同じ部署に働いたのは2年くらいでしたが、社会人として基礎力をつける大事な20代の時に出会えたのは大きかったですね。深澤社長は、仕事で相談したこと、伝えたことは細かいところまで何でも覚えていて、頭の良い人だなとずっと思っています。

― お二人が東研化工に入社した経緯を教えてください。
深澤転職したのは30歳のときです。先代は義理の父にあたります。社会人になったときから「うちに来ないか」と誘われていたのですが、まずは大手企業でスキルや経験を積みたいと考え、そのときは深く考えていませんでした。まさか自分が社長を務めることになるとは、想像もしていませんでした。
一念発起して「やってみよう」と思ったのは、リーマンショックの影響で当社の経営状況が厳しくなっていたときでした。先代から「助けてほしい」と言われ、ちょうど私自身も30代に入り、新たなチャレンジに挑みたいと思っていたタイミングでした。
渋谷「大変だと思うけど、頑張って」と送り出したのを覚えています。まさか自分がそこへ行くことになるとは思ってもおらず、「大企業から小さな町工場へと挑戦するなんて、すごいな」と、他人事のように感心していました。

深澤来てみたら、本当に大変でした。まずはものづくりの現場を知ろうと、現場のオペレーターの社員の方たちに教えてもらいながら自分でも積極的に手を動かしていったのですが、業務が属人化していて検査記録のデータ化もままならない状況でした。前職は大きな組織で、業務フローの仕組み化も進んでいましたし、ナレッジ共有もできていた。そのカルチャーギャップや未整備な環境に、当初は戸惑いましたね。
業務の流れを理解できるようになってから、どうしたら未経験者や若手が入ってきても業務をスムーズに引き継いでいけるような体制になるだろうかと、仕組みづくりに着手していきました。そして、業務改善を具現化していくために、白羽の矢を立てたのが渋谷工場長。一緒にやってほしい、とスカウトしました。
渋谷深澤社長とはよく飲みに行き、社内の話を聞く機会がありました。私は品質保証の仕事を通じて、人の目だけでは見落としがちな部分や、人の手だけでは効率化できないところをいかに仕組み化し、スキルを属人化させないかを徹底的に考えてきました。深澤社長の話を聞くうちに、自分が品質保証で培ってきた知識や経験が当社の現場で活かせると強く感じるようになったのです。
前職は大きな組織で分業制が徹底されていましたが、当社の規模であれば会社全体を見渡せることに魅力を感じ、勉強になることも多いだろうと考えました。「ぜひ来てほしい。力を貸してほしい」という深澤社長の言葉もうれしく、約10年の時を経て再び同じ会社で働き始めました。

― 東研化工の事業成長のターニングポイントや、培ってきた強みはどこにありますか。
深澤大きな転機となったのは、3Mの特約店会議にプレゼンターとして登壇したことです。そこで、当社が商品の在庫を持つので、製造も任せていただけないかと提案しました。この提案が受け入れられたことで、特約店の皆様にも当社の認知度を徐々に高めていくことができました。
渋谷在庫管理において、年間の製品動向をデータ化し、販売チャネルと連携することで、高い利益率を維持できます。当社はスリット技術だけでなく、加工後の製品まで一貫して管理しています。この包括的な対応が評価され、多くのお客様からご依頼をいただくようになりました。
深澤渋谷工場長が入社してくれたおかげで、仕組み化がさらに進み、大きな安心につながりました。

― 従業員とのコミュニケーションや関係構築で心がけていること、大事にしていることはありますか。
渋谷高卒で入社する従業員が多いため、彼らから見ると私たちは親世代にあたります。何気ない会話でも、“上から”話しているように感じさせてしまう可能性があるので、コミュニケーションを取る際には、相手を否定せず、同じ立場に立って話すことを心がけています。また、相対評価ではなく絶対評価で、一人ひとりの変化を見逃さないようにしています。少しずつでも成長している部分を見つけ、それを言語化して伝えています。
ミスやトラブルが発生した際には、なぜそれが起きたのかをプロセスを紐解きながら、一緒に考えていきます。「直ったからそれでOK!」として原因を追求しないと、同じミスを繰り返してしまうからです。
最初の頃は「こんなトラブルが起きました。どうしたらいいですか?」と直接解決策を求めてくる社員が多かったのですが、自分なりに原因を考えて報告するように教えました。こちらからも質問を重ねながら、論理的に原因を組み立てて考える力を養うコミュニケーションを続けてきました。ロジカルに考え、相手に伝えられる人材を育てることが、私の役割だと考えています。
深澤頼もしいですよね。渋谷工場長の思いを汲み取り、自ら考えて行動できる人材が社内で育つことで、組織はさらに強くなっていくでしょう。いつも現場で若い社員とフラットな関係で、楽しそうに話をしている姿がとても印象的です。

渋谷人間関係の基本かもしれませんが、「ごめんなさい」と「ありがとう」は常に欠かしません。私自身もミスがあれば、すぐに認めて謝るように心がけています。
この関係構築のベースには、学生時代から続けていたスイミングコーチの経験があるかもしれません。3歳の子どもからご高齢の方まで幅広い対象に教える中で、相手の立場に立ち、どんな言葉なら伝わるかを考えて動いてきた経験とスキルが、今の仕事にも生かされています。
深澤意見や指摘を「なるほど、そうか」と素直に受け入れられるのは、相手への信頼があってこそ。私も、現場からの意見に「なるほど」と考え直すことが多々あります。
渋谷実は、当社には人とのコミュニケーションに苦手意識を持っている社員もいます。それでも、コミュニケーションを通じて相手に伝わったかどうかは、伝える側の責任です。苦手な若手には「言いたいことをメモにまとめてから話すといいよ」「5W1Hで整理して伝えると分かりやすいよ」など教えながら、伝える場や機会をできるだけ多く提供するようにしています。
― これから東研化工をどんな会社にしていきたいですか。
深澤当社に入ってくれた社員とお客様がみんな幸せであれば、それで十分だと考えています。会社を大きくしたい、事業を拡大したいという思いはそれほど強くありません。しかし、働いている社員とその家族が安心して生活し、きちんと休みを取って自分の大切な時間を過ごせるためには、安定した収益が欠かせません。
その安定を実現するには、お客様からの信頼と評価が必要です。継続して発注いただけるように環境を整えることが、経営者としての私の使命だと考えています。
渋谷私の好きな言葉は「急がば回れ」です。手を抜けば必ずミスが発生し、お客様からの信頼も失ってしまいます。一つひとつの業務においてきちんとプロセスを踏むことで、次の仕事につながると信じているため、細部を大事にする人材を育てていきたいと思っています。丁寧な仕事ぶりで「東研化工に任せれば安心」と言っていただける会社を目指しています。